ぎぶみー あ ぶれいく









 それは私と仁が付き合い始めた頃の事なんだけど、思えば私もどうかしていたんだと思う。






「ん…」

 目が覚めると、そこは仁の部屋。
 正確に言うと仁の部屋のベッドの中で、その本人に抱きしめられている。
 もちろんその…昨夜なにがあったのかいちいち説明しないんだからね。
 誰に説明しているんだろ、私は…。

「玲愛…」
「ひ、仁?」
「むにゃむにゃ」
「寝言かぁ…ふふっ、あっ」

 び、びっくりした、脅かさないでよ。
 無意識なんだろうけど仁の腕が私を抱きしめる、たくましい胸に顔を埋める。
 この瞬間、仁を独り占めしているんだなぁって実感しちゃう。
 もし、私から気持ちをぶつけなかったら、ここにいたのは由飛姉さんかもしれなかった。
 だってこいつ、最初は由飛姉さんに惹かれていたから…。
 それに仁を好きな人は他にもいると思う、特にファミーユの人たちとか。
 そうすると次の職場にはライバルだらけってことよね?

「玲愛…愛してるぞ〜」
「私も愛してるわ、仁」

 顔を上げてそっとほっぺたにキスをしちゃう。
 もう…でも、どんな夢見ているか解らないけど、自分の名前を呼んでくれるのは嬉しい。
 だからすりすりと甘えちゃう、だってここには私と仁しかいないんだから。
 でも、昨夜の事を思いだして仁を起こさないように腕の中から抜け出すと、そのままお風呂場に移動した。

「〜♪」

 少し熱めのシャワーを頭の上から浴びる。
 髪を洗ってから体を洗っている途中に、昨夜の名残をみつけて顔が熱くなる。

「もう、こんなところにまで付けちゃうし…」

 白い泡に包まれた腕や胸に付いた赤いアザのようなもの、つまり仁に愛された証。
 それはもう人には言えないところまでしっかりと付いていて、今更ながら恥ずかしくなる。
 ふと、浴室にある鏡に自分の顔を写したところ、気が付いた。

「あーっ! もう仁のばかっ、見えるところに付けないでって言ったのに」

 ボディソープを洗い流してはっきりと見える痕は、服で隠れない部分にしっかりと付いていた。
 とりあえず、熱めのシャワーを長めに浴びて、少しでもその痕が消えるようにしてみたけど、完全には消えなかった。

「ふぅ…まだ寝てるか…」

 バスタオルを体に巻いて部屋に戻った私は、まだ寝ている仁の姿を見て微笑んだ。
 結構長めのシャワータイムだったのに、その長めの原因になった本人は、まだ夢の中らしい。
 まあ、起きたら乱入してきそうだから良かったような惜しかったよう…って、なに考えているのよ。
 またキスマーク付けられたらこまるからこれでいいのよ、うん。
 どっちにしろ今日は定休日だし、このまま寝かせておいてもいいわね。
 なんだかんだ言っても、キュリオと互角以上に戦っているんだから、疲れているんでしょう。

「でも、その後に私と…なのよねぇ、つまり自業自得なのよ」

 無論、それに関しては私にも責任の一端が有るかと思うけど、泣かされている身としては同情なんてしてやんない。
 いつか仕返ししてやると考えたりするけど、弱点を知られちゃったから当分は泣かされっぱなしなんだろうなぁ。
 つい、口に出した言葉があれだし…。

『入れられている最中に口説かれるとさ…ものすごいんだよぉ』

 なんて馬鹿な事を口にしたと思う、穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい台詞だった。
 お陰で仁ったら必ず耳元で『好きだ』『愛してる』と、何度も繰り返すから言いようにされている。
 ほぼ毎日ものすごいえっちをされるようになったのは、本当に自業自得だったわ。
 もう仁がいないと生きていけない体にされちゃったのかなぁ…。

「責任、ちゃあんととってもらうからね、仁」

 そう呟き仁の寝顔を眺めていたけど、バスタオルのままなのに気が付いて、脱いであった下着を手に取って愕然とした。

「しまったぁ…さすがにこれは身につけられない」

 つまり昨夜は帰って来るなりそのまま仁にされたから、その…下着も汚れていた。
 自分の部屋は隣だから取りに行くわけにも行かないしどうしよう…。
 とにかく何か着ようと思って、部屋のタンスから仁の服を借りる事にした。
 一番最初に目に付いたのが、白いYシャツだった。

「こう言うの好きなのかなぁ、仁って…」

 そっと着てみるとかなりぶかぶかで、指先は見事に隠れるし裾は膝上ぐらいで、部屋の鏡で自分の姿を写してみる。
 かすりさんの言う事には、仁は結構マニアックだから、きっと喜ぶとか言ってたよね。
 はぁ…その言葉に釣られた訳じゃないけど、こうして裸Yシャツしている私ってヘタレなのかしら?

「…うん、まあ部屋の中だし、恥ずかしいけど仁が起きたら取ってきて貰えばいいか」

 無理矢理納得して、今朝の朝食は私が作ろうと思い、キッチンに向かった。
 ちなみに絶対に卵料理だけはだしてやらない、絶対に文句言うからよ。
 誉め無いどころか自分で作り直して自慢するやつだから、そこの所はすごくむかつく。
 そう心の中で仁に文句を付けながら、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。

「ふん、コーヒーは私の勝ちなんだから」

 こればっかりは仁にも譲れない、もちろんほうじ茶も私の方が美味しく入れられる。
 見てなさい、いつか卵の方も追い越してやるんだからと、密かに練習も怠らない。
 袖をまくって手早くお米を研ぎ炊き込みのスイッチを押して、
 次に鍋に水を張りコンロに載せて、お湯が沸く間に大根を細かく切る。
 今朝はお大根のおみそ汁にした、私的には一番好きな具なのよ。
 沸騰したお湯に煮干しを入れて出汁を取ったら大根を入れて、一煮立ちするのを待つ。
 丁寧に浮かんできた灰汁を取って、おみそを溶かしながら入れる。

「よし、今日も勝った♪」

 味見をして思わず拳を握って小さくガッツポーズをしちゃう。
 コンロの火を止めて冷蔵庫から鯖の切り身を出して塩を軽くふり、グリルの中に入れてじっと待つ。
 そして焦げ目も香ばしく焼けた魚と実家から持ってきたぬか漬けを切り分けて、朝食の用意はこれで終わり。
 掛けていたエプロンを外してほっと気を抜いた瞬間、後ろから抱きしめられた。

「ひゃあっ…って仁?」
「おはよー」
「ひ、仁、いい加減離れなさい」
「いやだー」
「なっ」
「だってまだおはようのキスしてないし」
「ひ、ひとっ…んっ…」

 そう言って私の顔を後ろ向けさせて唇を奪った。
 だけどおはようのキスにしては、激しく舌を絡ませてきて、空いていた手でYシャツの上から胸を撫で回してきた。

「っ…仁っ!」
「ごめん、そんな格好の玲愛見たら、我慢できなくなった」
「い、いやよ、朝からだなんて…それにせっかくのご飯が冷めちゃう」
「解ってる、でもだめなんだ」
「い、いやっ」
「玲愛…愛してる」
「あっ」

 ここ一番で私の弱いところを付いてくる仁は、卑怯すぎる。
 キスの合間に私が喜ぶ言葉を囁き続ける。
 本能が仁を求めている私は、体が自然に反応して、抵抗する力が抜けていく。

「やぁ…」
「可愛いぞ」
「だ、だからだめっ…ああっ」
「玲愛」
「ひとしぃ…」

 大きな仁の手は私の両胸を優しく、だけど大きく動かしていく。
 指を噛み締めて声が出そうになるのを押さえようとするけど、仁が唇を重ねて邪魔をする。

「んっ…こ、こらあっ」
「声、ききたい」
「もうっ…へんたい…」
「うん」

 開き直った仁はYシャツのボタンを外して、直に胸を触ってくる。

「玲愛、立ってる」
「ば、ばかあっ、いうなぁ…」
「可愛いぞ」
「ううっ、やっぱりあんたはへんたいよぉ…あんっ」

 指先でいいように弄られて、声が出ちゃう。
 胸先からびりびりした感じが体中をはしって、ますます体が熱くなっていく。
 もう自分の体じゃない、仁の指で踊らされる人形みたいに、私は声を上げ感じている。
 その指先はついに一番熱い部分に伸びてきた。

「玲愛…お前下着付けてないのか?」
「き、着替えがなかった…から…ああっ」
「それで裸Yシャツなのか」
「ひ、仁の為じゃないんだからね…んっ…んああっ」
「解ってる解ってる」
「ち、ちがうんだってばぁ…あぅ…」

 結果的にはそうなったけど、最初からそんなつもりはなかったんだからぁ。
 ボタンを全部外されたYシャツの下で、仁の手は私の体を蹂躙して快感を引き上げていく。
 何もかも熱くなって、何にも考えられなくなって。
 仁の事だけで、心が満たされて。
 もう立ってられなくて、キッチンのシンクに手をつくとお城を突き出すような格好になる。

「玲愛?」
「もうだめ…立ってられないよぉ…はぁはぁ…」
「いれるぞ」
「ま、まって…あああんっ」

 体を熱い棒で貫かれて、一瞬仰け反っていっちゃった…私、どんどん感じやすくなってる。
 仁のばかぁ…私ってどんどんダメになってるよぉ。

「いったのか?」
「そんなのきくなぁ…だいたい仁のせいなんだからね…こんなにえっちな体になっちゃったのは」
「もっと、えっちな体にしていいか」
「仁」
「ん?」
「私の事、愛してる?」
「愛してる」
「じゃあ、いいよ…仁のために、もっとえっちになってあげる…だから…」
「愛してるよ、玲愛」
「ひとしぃ…」

 私の耳元で優しく囁いて、重ねた手をぎゅっと握ってくれる。
 そのままゆっくりと動いて、仁は私の心と体を愛してくれる、それがとっても気持ちが良い。
 朝とかキッチンとか朝食とか忘れて、仁に溺れていく。
 でも、全然嫌じゃない…だってとっても幸せで、凄く温かい気持ちになっていくから。

「可愛いぞ」
「あ…んぁ…ほ、ほんとぉ?」
「ああ、食べたいぐらいだ」
「じゃあ…あん…食べて…良いよ」

 そう言ったらはだけたYシャツから見えていた肩に軽く歯を立てられたけど、そこからも甘い快感が広がり始める。
 休むことなく耳もうなじにも、仁は同じように食べる仕草やキスをしていく。
 でも、こんなに毎日食べて飽きないのかちょっぴり不安な気がする。

「ね、ねぇ仁…んくっ」
「な、なんだ?」
「あんあぁ…わ、私のこと…飽きたりしない?」
「飽きない、何杯でもいける」
「嬉しい…あああぁんんっ! …いきなり…ふ、ふかいよぅ」

 また、軽くいっちゃった…。
 えっちしている時、仁は欲しいと思っている言葉を素直に言ってくれる。
 だから普段からもっと言って欲しい、そうしたら毎日がもっと楽しくなる。

「ひゃん!?」
「あ、ごめん」

 お尻を撫でていた仁の指先が、後ろに入りかけた。
 もしかして仁ってそっちも興味有るの!?

「仁…そっちも…興味あるの?」
「え、いや、それはまあ…」
「したい?」
「え…っと…玲愛」
「もう…仁って本当に変態なんだからぁ…」
「か、勝手に決めつけるな」
「でも…したいんでしょ?」
「う…」

 そっちの経験なんて有るわけ無いけど、仁が好きなら…って、私も変になってるよぉ。
 死ぬほど恥ずかしいけど…でもぉ。
 少しだけお尻を持ち上げて、呟く。

「仁…」
「玲愛?」
「好きにして…いいよ、でも優しくして…ね」
「お前、めちゃめちゃに可愛すぎるぞ」
「仁だけ、なんだからね…こんなこと、させるのは…」
「解ってる、玲愛にしていいのは俺だけだ」
「うん、仁…あん…」

 仁の指がお尻の中にゆっくり入ってくる。
 優しく、私の反応を見ながら、優しく動かす。

「あ、ああ…うん…ああっ…い…」
「痛くないか?」
「へ、平気…仁、優しいよぉ…うん…はぁ…」
「こっちの中も凄く熱い」
「ばかぁ…説明、するなぁ…はうんっ」

 指が出たり入ったりする度に、背筋を駆け上がっていくしびれ…。
 私、お尻で感じちゃってる…これじゃもう仁の事、変態って言えない。

「入れるぞ」
「ゆ、ゆっくりね…」
「ああ…ぐっ」
「ひあっ…あ…き、きつい…あうう…」
「痛かったか?」
「ううん、大丈夫…だよ…続けて…あん…ああ…」

 入ってくる、仁のが…こんなの、お尻が焼けちゃうよぉ。
 でも、拒めない…だって仁のだから…そう思うと、お尻が入れやすいように勝手に動く。
 仁が…好き。

「全部、入った」
「はぁ…ん…ほ、ほんとぉ?」
「うん、玲愛のお尻…熱いな」
「気持ち…いい?」
「とろけそうだ」
「んああぁ…こ、これで仁に初めてを、二回も上げちゃった」
「責任取るって」
「うん、取らなきゃ殴り殺すぅ…はぅんんっ…」

 当たり前よ、ここまで奪われてとぼけるのなら、本当に殴り殺すかも。
 これで立派な変態になっちゃったのよね、なんかそれは嫌だけど…。

「動いていいか?」
「ゆっくりよ…ゆっくりね…」
「ああ」
「あ、ああ…い…いいっ…はああぁぁ…ぁん…」
「玲愛」
「あ、あはぁ…き…気持ち、いいよぉ…やだぁ…私、お尻で感じてるよぉ」
「えっちな玲愛も、大好きだ」
「ひ、ひとしぃ…すきぃ…あああぁぁぁっ…も、もっと、してぇ…あんっ」

 もう何言ってるのかわかんなくなってきた、壊れちゃった。
 熱い仁が私の中をかき回すから、もうめちゃくちゃぁ…でも、もう止まらない。
 自分の意志とは無関係に体が勝手に動いて、仁を求め続ける。

「うっ」
「ひ、ひとし?」
「でるぅ」
「きて…きて、ひとしぃ」
「れ、玲愛、愛してるっ」
「ひとし…ひとし…あ…ああ…あああぁぁーっ! ぁ…あん…はあぁ…あ、んん…」

 ああ、どくんどくんって、お尻の中に仁の熱いが流れ込んでくる。
 私もお尻でいちゃった…頭の中真っ白になって気持ちよかった。
 初めてなのに…こんなに感じる私って、仁よりも変態なのかなぁ…。

「ううっ」
「ど、どうした玲愛、やっぱり痛かったのか?」
「違うの…お尻でいっちゃったなんて…仁の事言えないなぁって、自己嫌悪してたの」
「どんな玲愛だって、気持ちは変わらないよ」
「…こんなに、えっちでもいいの?」
「大歓迎だ」
「変態だぁ…本物の変態なんだ、仁って…」
「こ、このっ」
「ああんっ、ま、まって、私まだ…」
「待たない」

 私の抗議も空しく、仁はまた堅くなった自分を、今度は前に入れてきた。
 お構いなしに激しく突き上げて、落ち着いたばかりの体が、また熱くなり始める。
 気持ちがすぐに登り始める、止める事が出来ない。

「あぅん…ああっ…も、もう仁のすけべぇ…あんんっ」
「お前もなっ」
「うん、私も…すけべだね…だって、仁の彼女だもん…あぁ…」
「言ったなぁ」
「だ、だめぇ…は、激しすぎるよぉ…ひ、ひとし…あああんん…んくっ…はぁあんっ」

 仁が急に激しさを増すから、私は鳴く事しかできない…何回鳴かせば気が済むのよ。
 でも、そんなことすれば自分だってただじゃ済まないくせに、馬鹿よねぇ。
 だから、ほら…。

「玲愛」
「ひ、仁?」
「もう…いくぞ」
「う、うん」
「このままで…中で…」
「うん、大丈夫…だから。きていいよ」
「れ、玲愛っ、好きだっ」
「あ…あん…仁っ…私も…あ、愛してるっ…う、あああ〜…っ! …あんっ、あ…ん…ぁ…」

 そのまま崩れ落ちないように、仁は首筋や耳にキスをしながら私の体を抱きしめてくれた。
 もうずっとこうしていたいって思う気持ちが通じたのか、息が落ち着くまで仁は
離れる事はなかった。
 で、頭が冷めてきた私は朝食の事を思い出した。

「あーっ!」
「ど、どうした玲愛っ?」
「せっかく朝ご飯作ったのに、冷めちゃった」
「そんなことか…はぁ」

 なぜだか仁が言った一言に私はかちんときた、同時にどんどん温かい気持ちが冷めていく。

「そんなことってなによ!」
「えっ」
「せっかく美味しくできたのに…そう言うこと言うんだ仁は?」
「ごめん、悪気はない」

 美味しいよって言って貰いたくてがんばって作ったのに、仁はどうでもいいんだ。
 そう思ったらどんどん腹が立ってきた。

「…以前言ったよね? 料理は出来たてが美味いんだって…それなのに今はそう言うんだ」
「うぐっ」
「…帰る」
「玲愛!?」
「離してっ」

 抱きしめていた仁の腕を振り解いて、Yシャツのボタンを止めていく。
 ちょっと体中がべとつくけど、自分の部屋に戻ってシャワーを浴びれば済む事よ。
 呆然としている仁の横をすり抜けて、玄関まで行って鍵を開けた時、腕を捕まれた。

「離してっ」
「落ち着け、玲愛」
「私は十分に落ち着いてるわよ」
「こっちむいてくれ」
「いやよ」
「玲愛」
「むーっ…んん…あ…ぅん…」

 私のあごを持って強引に唇を奪う、息継ぎもさせない。
 スキンシップに弱い私は、抵抗できなくなる。
 それをしってこうしてくる仁は、本当に卑怯者よ。
 やっと唇を離した仁は、私の顔を覗き込むように見つめる。

「落ち着いたか?」
「…ふん」
「ごめん、無神経だった」
「もういい、そう言うところもひっくるめて仁を好きになった私がへたれなだけよ」
「だからホントに悪かった、温め直して食べよう」
「…うん」
「卵焼きも付けるからさ」
「それって、自慢したいだけじゃないの?」
「いや、玲愛に覚えて欲しい…からかなぁ」
「え?」
「な、なんでもない」

 そう言って顔を赤くした仁はキッチンに逃げ込もうとしたけど、今度は私が引き留める。
 大事な事を誤魔化そうとするのは、許さないんだから。

「もう…仁、はっきり言ってよ」
「あー、つまりあれだ」
「あれじゃわかんない、だから…ねえ、仁?」
「うっ」
「ねぇ…聞きたいよぉ、お願い」
「あーう…」
「仁ぃ」

 見つめる私を誤魔化すように抱きしめて、やっと仁は耳元で囁いてくれた。
 仁が言ってくれた言葉は予想通りで、嬉しくって私からも抱きしめる。
 お互いぎゅっと抱きしめ合って、冷めていた心がまた温かくなった。
 喧嘩してもこうしてまたすぐに仲直りが出来るのは、仁が卑怯者だからなのかもしれない。
 それでも、仁といつまでもこうしていたい…やっと掴んだ私の恋だから。






 …で、ここでそのまま朝食に進めば綺麗に纏まったんだけど。






「食べる前にシャワー浴びた方がいいぞ」
「え…あ、うん、そうね」
「その間に換えの下着、取ってくるからさ」
「…待ってるから、中で」
「お、おう、すぐに取ってくる」

 今更ながら照れてしまって赤くなり私はうつむき、仁は天を仰いだ。
 そして仁はじゃあと、玄関に置いてあった私の部屋の鍵を握りしめてドアを開けた。






「あ、あはー」






 そこにいたのは顔を赤くして苦笑いを浮かべている瑞奈だった。

「瑞奈?」
「お、おはよー、玲愛、高村さん」
「おはよう、川端さん」
「な、なに?」
「あの…その…あははー」
「なによ瑞奈?」
「あのさ、玲愛って声大きいから気を付けた方がいいかなーなんて」
「へっ?」

 最初、瑞奈が何を言っているのか解らなかった。
 声がどうしたって…ああっ!

「も、もしかして!?」
「キッチンって廊下に面してるからさぁ…その、結構響くよ」
「んなあっ!?」
「れ、玲愛?」
「聞こえていた? 全部?」
「うん、全部…ねぇ玲愛、お尻大丈夫?」
「うああっ!?」

 心配そうに言ってるけど、笑顔で見つめる瑞奈がむかつくんだけど、今はそれどころじゃない。
 ああっ、二軒向こうの瑞奈の部屋まで聞こえていたんだから、他の住人にも聞こえたはずよ!
 自己嫌悪するまえに、とりあえず仁の頬を殴る。

「い、いてっ…ってグーで殴るなぁ!」
「仁の馬鹿っ!」
「お、俺だけ悪者かよ!?」
「全部仁のせいよ、それに決定!」
「確定かよっ!?」
「いやー、玲愛にも責任有るんじゃないかなぁ」
「瑞奈、どう言う意味よ?」
「そ・れ」
「ああっ!!」

 瑞奈が指さしたのは裸Yシャツ姿の私、しかもニヤニヤしながら。
 しまった、今の自分の格好を忘れてたぁ〜。
 こんな姿じゃ説得力なんて出るわけ無い、迂闊だったぁ。

「高村さんもマニアックですね〜」
「いや、俺がやらせたんじゃないし」
「えー、それじゃ玲愛が自分からですか?」
「あ、ああ」
「ふーん…」
「見るなぁ!」
「いや、玲愛の貴重な姿だし、記憶に残しておこうかなと」
「残すなぁ! そして忘れろっ!」

 瑞奈の顔を見ていたら、ここだけの話じゃ済まないって確信できる。
 ああ、もう…明日キュリオで店長に何か言われるに決まっている、瑞奈が絶対に喋る。
 それにファミーユのメンバーにも伝わるって事で、つまり由飛たちに知られるって事で…。
 みんなから絶対に何か言われると、頭を抱えて唸っている私に、瑞奈は追い打ちを掛ける。

「玲愛」
「黙れ」
「次は裸エプロン?」
「するかーっ!!」
「あはは、じゃあごゆっくり〜」
「待ちなさい、瑞奈ぁ!」

 私の制止になんて気にせず、とっとと自分の部屋に逃げ込んだ。
 鍵の掛ける音とチェーンを掛ける音が聞こえた、完全に引きこもったわね。
 明日覚えていなさいよ!

「…うーん」
「仁?」
「裸エプロンかぁ…」
「しないわよ!」
「ちぇ」
「この変態っ!」
「いててっ」

 つまんない想像している仁の耳を引っ張って、部屋の中に戻る。
 誰がするもんですか、そんな恥ずかしい格好なんて!
 今日はたまたまよ、そう…着替えが無くて仕方なくこんな格好したんだから!
 仁の為なんかじゃないんだからね。
 とにかく、これ以上私の風評を落とす事なんて、しないったらしないんだからーっ!






 でも…。






「玲愛、お前…」
「じ、じろじろ、見るなぁ!」
「最高だっ!」
「ああんっ」






 そしてマンションの廊下に都合よく瑞奈がいるなんて、考えもしなくって。






「ほーんと、玲愛もくだけたわね〜…あ、店長ですか、今朝も凄いんですよ〜」






 私、もうだめかもしれない、ううっ。






 FIN





作者コメント


戯画祭り、おめでとうございます。
遅くなりましたが、玲愛グッドエンドのアフターで書いてみました。
短い文章なので、ちょっとだけでも楽しんで貰えたら嬉しいかなぁ…。
最後に、右近さん…素敵な企画ありがとうございました。

Written by じろ〜