バルドフォース2



 本当に突拍子もない出来事というのは、聞く者には冗談にしか聞こえない物である。

「月政府による独立宣言…ですか?」
 改めて言葉にしてみて、これほどうさんくさいニュースもないように思えた。
「そうだ、うそでも冗談でもない。そんなもので緊急招集なんてかけたりはしない」
 あの事件後に中隊長になった八木澤宗次(やぎさわそうじ)が、いつものように面白くなさそうな表情でそう答えた。
「これから流すのは、月政府首相による…独立宣言みたいなものだ。…無論、政府上層部の判断で一般には流されていない」
 そう言って手元のボタンを操作すると、なにかの会見のような画面が映し出された。
「このおっさんが月政府首相っすか? あんまり見たような記憶がないなあ」
 同僚の柏木洋介(かしわぎようすけ)が、そんな印象を述べた。首相をつかまえておっさんもないのだが、俺も正直同じ意見だった。
「まあ月なんて、ネットでしか行ったことないからねえ。あんまり認知度はないか」
 気楽そうにそう言ったのは、俺たちの直属の上司に当たる…ことになってしまったカイラ=キルステンだった。
 カイラの言うとおり、俺たち庶民にとって月政府とはほとんど関わりはない。せいぜいが衛星通信を通しての交流程度だ。
「お前ら、月政府についてはどのくらい知ってるんだ?」
「そんなもんもあったんだなあ…って程度っすか」
 中隊長の問いに洋介がへらへらと答えた。
「あー、みのり、説明頼むわ」
 まったくこいつらはという表情を浮かべると、中隊長はそう言ってオペレーターの瀬川みのり(せがわみのり)に話を振った。
「わかりました。それでは簡単に説明をしたいと思います」
 みのりはそう答えると、説明を始めた。
「月政府ができたのは今からおよそ二百年前になります。
 ですが当時は政府があっても市民はなしの状態で、月自体への移民が本格化したのはそれから十年後…ちょうど第三次大戦のころになります。
 現在の月市民は、三百万人と言われています。
 月表面における市街地面積はおよそ十パーセントで、月面の半分以上を占めているのが太陽電池による電力生産地区となっています。…付け加えますと、この電力により地球の電力の約四割がまかなわれています」
「なーるほど四割か、そいつは大変だ」
 あんまり大変そうではない口調で、洋介が茶々を入れた。
「電脳化が進んできたことにより、電力消費量はかつてよりも増大してきたため、月の電力はかなりのウェートをしめています。…逆に、電脳化が進んできたために、月との物質的交流はほとんど皆無に等しくなっています」
「その辺が今回の独立への気運のひとつになってるのかしら」
 これまで一言もしゃべっていなかった紫藤彩音(しどうあやね)が、ぼそりと感想をもらした。
「そうですね。…あとは食糧事情なんかも大きいかも知れません。
 農場開拓も行ってはいるようですが、生鮮食品はかなりの高級品らしく、栄養源のほとんどはチューブによる補給に頼っているみたいです」
「…まあ、どうしてそうなったのかというのは、後のことだ。
 それでは、これからのことについての説明を行う」
 中隊長が月への同情的な空気をかき消すように、そう口を開いた。
「連中の行動は非常に迅速だった。
 この独立宣言と同時に、この地上でもっとも宇宙に近い場所…NASAへ攻撃をしかけてきた。
 方法としては、月に一便だけ往復のある宇宙船のシステムに戦闘用電子体(シュミクラム)一個師団を隠してやってきた。この一個師団をもってわずか数時間でNASAを内部より掌握、その後ネットにより帰投後、船に大量に積んでいた爆薬によって物理的にもNASAへ大ダメージを与えた。
 これによって、月と地球を結ぶルートは人工衛星を中継にした、わずか128のルートのみとなった」
「そこで我々に来た命令は、この残された128のルートから月のメインシステムへ侵入、これを落とすことにより月政府を降伏させようってわけよ」
 中隊長の言葉を引き受けるようにして、カイラ…小隊長が説明をした。
「それでは、全員席につけ、詳しい説明は道々行う」

「「「了解(ヤー)」」」



「しっかし、月の独立宣言か、こういうことが本当に起こるとは思わなかったぜ」
 操作席(コンソール)につくと、さっそく洋介が個人回線(プライベートコール)を開いてきた。
「ふっ、そうだな。昔の立体映画(ホロ)みたいな話だ」
「いーや、どっちかってーと、動画(アニメ)だな」
 そんなことを洋介と話していると…
「あー、緊張していないのはいいが、緊張感がなさすぎだな」
 …中隊長の交信(コール)が入ってきた。
「残念ながら…これはアニメじゃない、現実だ」
「「了解(ヤー)」」


ダイブ
没入


「じゃあこっちの状況を説明するわよ」
 カイラの交信が入ってきた。
「現在、他の部隊が既に戦闘(ドンパチ)を始めているわ。
 とにかく一部隊でも連中の頭を押さえればいいから、一番向こうの戦力が薄い部分を狙うわよ。よって、まだルートは決まってないわ」
「かなりの苦戦を強いられているようだが、こちらにも援護を送る余裕はない」
「数の上では、こちらの方が多いはずなのに、全体的には不利なようです」
 中隊長とみのりの話からも、むこうの戦力がかなり大きいことが伺える。
「V・S・S(バーチャル スフィア セキュリティ)がなくなり、リバイアサン事件のごたごたでホッと一息ついたところを狙ってきた所を見ても、かなり計画的なものだったことが伺える。
 だが、計画的であったればこそ、ここで叩ければおしまいにできる。諸君らの働きに期待する」
 中隊すべてに発信したものだからか、中隊長のどこかかしこまった言い方とともに、その内容が印象に残った。
「突入ポイント、決まりました」
 みのりからの交信が入ってくる。
「どこだ?」
「第一小隊は全隊、N2ルートに突入してください。そこが一番相手の戦力が薄いみたいです」
「「「了解(ヤー)」」」

 ピピピッ…

「あっ、緊急回線(エマージェンシーコール)です!」
 いざっというところで、タイミングを狂わせられるかのようなエマージェンシーのシグナル音とともに、みのりからの回線(コール)が開かれた。
「全中隊に発信する。すべてS7ルートに向かうように! 繰り返す、ただちにS7へ行けぇ!」
 珍しく焦ったような中隊長の言葉に、かなり危急な様子が伝わってきた。
「みのり、いったい何があった?」
 方向転換をしつつ、みのりに聞いた。
「あ、はい。…えっ、ええええーーーーーーーーーーっっ!!」
「どうした、みのり!」
「あ、あの、あの、S7ルートの基幹になっている人工衛星が、軍事衛星だったみたいです!」
「なんだってっ!! 軍事衛星はすべて廃棄したんじゃなかったのか!?」
「そのはずです、そのはずなんですけどっ!!」
 第三次世界大戦後、大幅な軍縮が行われて、その際にすべての軍事衛星は国連の名の下に廃棄処分にされた…はずだった。
「出ました!
 衛星名フェンリル…超長距離射程のレーザーを搭載したまぎれもない軍事衛星です!
 気象衛星セイレーンはこの隠れ蓑になっていたみたいです!」
「S7ルートへの向こうの戦力集中が尋常じゃなかったことから、おかしいとは思ったんだよ。
 当然避けたいはずのルートだったのに、強力にそこへの戦力投入を押し進める国があったと思ったら、やっとゲロしやがった…ふざけんじゃないってのっ! だいたい…」
 その後はとても書けないような禁止用語で、カイラが口汚くののしった。
「軍事衛星フェンリルのレーザーの射程は最大35万キロメートル、当然地球のどの都市も狙える上に月都市も狙えるとあって、あちらさんもすごい鼻息だ。
 こいつを奪われたら、事実上の敗北とも言える」
「責任重大だな、おい」
 洋介の軽口も、どこか重い物だった。
「S7ルートへの入り口、もうそろそろ見えてくるはずです」
 みのりの通信で注意を向けると、前方200仮想メートルあたりにゲートが見えた。
 既に多くの部隊が突入された後らしく、ゲートは完全に開かれていた。
「そこを入って5仮想キロメートル進めば、セイレーン…いえ、軍事衛星フェンリルの中へ入れます。
 フェンリル内部では通信はできますが、離脱(ログアウト)はもちろん、こちらからの強制中断(アボート)もできませんので、十分気をつけてください」
「「「了解(ヤー)」」」

 …その5仮想キロメートルは、もっと短く感じられた…

 開きっぱなしだったゲートをくぐると、なんとも言えないイヤな感じがした。
 強制離脱(アボート)もできないと聞いていたためか、なんとも言えない閉塞感を感じずにはいられなかった。
「目的のフェンリルの中枢は、そこからまっすぐ北にいった所の最下層に位置しています」
 みのりの誘導にしたがって、俺と彩音と洋介は連れだって進む。
「…ねえ、なんだかイヤな感じがしない?」
 彩音がボソリとそう聞いてきた。
「…確かにな、これまで以上の戦場だからな」
 洋介がそう返した。
「ううん、そういうんじゃなくて…なんと言ったらいいのか」
 上手い言葉が見つからないのか、彩音が眉をひそめた。
「…確かに、イヤな感じというか、イヤな予感がするな」
 俺自身、感じ続けていたことを言葉にした。
「そう、透(とおる)も感じているんだ」
「…そろそろ、おしゃべりもできないかもよ」
 そう洋介が言うのと同時に…
「前方にシュミクラム隊確認。見たことのないタイプです、おそらく月のシュミクラムです」
 …というみのりの通信が入った。
「じゃあ死ぬなよ、お前ら!」
「お互いにね」
「いっしょに帰るぞ」
 お互いに激励をかけつつ、敵へと集中する。
 確かに見たことはないタイプであったが、シュミクラム自体そう大きく変わる物ではない。
 敵の斉射を迂回しつつ、ミサイルボットを放つ。
 かなり訓練されているようで、容易い敵ではなかったが…

「それだけだ!」


「無事か?」
「…当然」
「なかなか強かったが、まあこれくらいならな」
 共に歴戦をくぐり抜けてきた相棒達の心強さに、知らず知らずに頬がゆるむのを感じるが、気を引き締めてサポートのみのりに声をかける。
「みのり、誘導を頼む」
「はい、そこから北へ行くとかなり大きなフロアになっています。そのフロアから下層へはそこに開いている穴をくぐってください。全部で52層あります」
「その最下層まで行けばいいんだな?」
「50層目がダミーの最下層になっていまして、そこから下へ行くには隠しエレベータを使わないと駄目なようです。
 さらに51層目には下へ行かせないためのウィルスが仕掛けられているようです」
「うへー、大変そうだな」
「一つ一つ進んでいきましょう」
「ああ」

 シュン…

 入ったフロアは確かに広かった。
「こいつは広いな」
 洋介の言葉通り、向こう側の壁が見えないくらい広かった。
 そしてみのりの説明通り、所々に柱にまじって穴が開いているのが見えた。
「とりあえず目につく敵を倒したら、すぐに降下しましょう」
「だな、敵の掃討が目的じゃないしな」

 降下するごとに敵の数も強さも上がっていくが、総じて順調だった。


 …そう、奴に出会うまでは…


「あぶねえっっ!!」

 それはほとんど直感だった。
「うおおっ!」
 俺が洋介の機体を突き飛ばすのとほとんど同時に、さっきまで洋介のいた場所を三条の閃光が通り過ぎていった。
「あ、あぶねえ……た、助かったぜ、透」
 それが放たれた場所を見ると、二体の緑の機体とともに…

 …真紅の機体があった。

「洋介、彩音…」
 …声が震えた。
「…なんだ?」
「…なに?」

「緑の方を頼んだ」
 …全身が震えているようにも感じられた。
「わかった」
「了解」

 全身の皮膚が泡だつのを感じる、そう、…奴は、強い!

 緑の二体がそれぞれ洋介と彩音の機体に向かうが、奴はそこを動かない。
「…上等だ」
 すべてのミサイルを奴に向かってはき出すとともに、一直線で突き進む。
 こちらの思惑を読んだのか、奴も斜線上のミサイルを打ち落としつつまっすぐにこちらにつっこんでくる。
 接触間際に、波動砲を放ったのも同時なら、ファンネルを放ったのも同時だった。
 飛び交うレーザーをかわしながら、お互いにお互いの距離をはかりあう。
「やる」
 互いにフェイントをかけるが、どちらにも通じず、お互いの本命の攻撃は避けあう。
 まるで鏡にうつった自分と戦っているかのごとく、互いに相手の気持ちが手に取るようにわかる。
 互いに、実力は互角!


 …そう、思った…


「えっ…?」

 …消えた?

 ガァァーーン!!

「ぐわっ!」
 肩に走る痛みとともに、間合いをずらしていく奴を発見する。
 消えたわけではなかった。だが…

「早い!」

 早すぎる! やつの最大速度だと感じていたものよりも、三倍は早かった。
「あんな速度で、知覚できるのか、反応できるのか!?」
 やみくもにレーザーを放つが、あざ笑うかのように奴はかわしていく。
 こちらに突っ込んでくると見せて、消えたかのように進路を変え、一撃を加えてくる。
「ぐあああっ!!」

 かわし損なった一発のミサイルで体勢が崩れた瞬間、数発のミサイルをまともに食らってしまった。

「…!!!」

 気づいた瞬間、奴は眼前で……銃口を向けていた……



「だめええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!」



 同時に多数のレーザーが通り過ぎていった。

「えっ…」
 何が起こったかわからずに、茫然自失していたところに…
「大丈夫!? お兄ちゃん!!」
「れ、憐(れん)か…?」
 …眼前に電子体で浮かんでいるのは、まぎれもなく憐だった。
「大丈夫、透?」
 続いて現れたのは、バチェラのシュミクラムだった。
「そうか、あのレーザーはバチェラか」
「うん。…でも、何者だよあいつ、不意打ちのあれだけの数のレーザーをすべてかわすなんて」
 バチェラの声にも困惑が伺えれた。
「あの反射速度は、ゲンハ並みだよ…ううん、もしかしたら、それ以上かもしれない」
 おそらくゲンハ以上だろう。いかにゲンハといえども、常人…いや、一流の戦士の三倍以上の速度で知覚できるとは思えない。

「透、くるよ!」

 バチェラが叫ぶと同時に、多数のボットを出して迎撃を試みているが、それすらもあざ笑うかのようにあっさりかわしながら突き進んでくる。

「きゃあああぁぁぁ!!!!」

 憐の叫び声とともに、奴が再び遠ざかっていくのが見えた。
「透、いくら憐の無効化があっても、これ以上は厳しいよ!」
 バチェラの声で、ようやく思い出す。
 致命傷になるはずだった今のと…一番最初の攻撃でなぜダメージがなかったのかが、やっとわかった。

 …憐が必死の想いで、無効化してくれたんだと…

「憐、大丈夫か!?」
 無骨なシュミクラムの手の上で、ぐったりとしている憐にたまらず声をかける。
「…う、うん…憐は、憐は大丈夫だよ…」
 俺に心配をかけないようにだろう、憐が弱々しく微笑む。
「…お兄ちゃん、あの人の近く、なんか変だよ」
「変?」
「うん、あのね、なんか、ぐんにゃあってしてるの」
 憐が何かを伝えてくれようとしているのがわかったが、その肝心な何かがわからなかった。
「透! またくるよ!!」
 バチェラが叫ぶ。どこか恐慌を起こしているのはしょうがないだろう。


…奴の攻撃は、こちらには知覚できないのだから…


…奴の攻撃を、静かに目を閉じて待つ…


…どこか落ち着いてしまった自分に、苦笑する…


…どうして憐とバチェラがここに来たのかわからないが、最期を共に出来るのなら…


…それも…


「…悪くない…か…」


…そうつぶやいて、憐を見つめると…


「…お兄ちゃんなら…大丈夫、だよ…」


…憐が、そっと微笑んだ…




フリップフロップ
反転





 …ガアアァァァーーーーン!!!
 …ガアアァァァーーーーン!!!

 …瞬間、交差する二本の閃光…

 俺の放った一撃が、奴の右腕を捕らえ、奴の放った一撃は遥か後方へと消えていった。
 焦ったように後方へと下がる奴の動きは確かに早かった…だが、三倍などという馬鹿げたほどの早さではなかった。
「透、いったいどうやって!?」
 バチェラの叫びを無視して奴を注視する。
 奴は後方へと下がると、彩音と洋介の相手をしていた緑の二体と合流して…

「えっ?」

 …あっさりと上層へと消えていった。

「透、大丈夫か?」
「透、大丈夫!?」
「あ、ああ…」
 あの馬鹿げたスピードこそなくなったとはいえ、相対的にはまだ奴のほうが有利だったはずだ。
 それなのに、一体どうして?
「バチェラ!」
「それに憐ちゃんまで!」
 俺のそばにいたバチェラと、俺の手の上にいる憐に気づいて、二人が驚きの声をあげる。
 そこではたと気づく。
「そういえば、どうしてこんなところに?」
「そうだった! とにかく急いでここから離脱するんだ!」
 俺の問いに、バチェラが思い出したようにそう叫んだ。
「えっ、一体何がどうしたってんだよ」
「説明は後だよ! とにかくここからすぐに離れないと!」
 バチェラはそう宣言すると、バーニアをふかして上層へと上っていく。
「とにかく追うぞ!」
 俺もそう宣言して、憐を抱えてバチェラの後を追う。彩音と洋介がとまどいながらも付いてくるのがわかった。


「一体どういうことだ、バチェラ」
 バチェラに追いつくと、疑問をぶつけた。
「透、二時間くらい前から妨害(ジャミング)されてたことに気づいてた?」
「そ、そういえば…」
 そう言われて、みのりからの通信がされていなかったことに気づいた。
「そのせいで、ボクらがここまで来たんだけど…時間的にもう無理だったから…」
 バチェラはそこで気まずそうに口を閉ざした。
「…るさ………おる…ん……と…るさん! 透さん!」
「み、みのりか?」
 一層目に到達したと同時に、みのりとの通信が復活した。
「透さん、良かった! と、とにかく急いで離脱妨害エリアから出てください!」
「一体どうしたんだ、みのり?」
「D・O・S(Disconnect of Silvercode)だよ」
 俺の問いに、バチェラが答えた。
「D・O・Sだって?」
 思わず手の上の憐に目がいってしまいそうになる。
 あのたくさんのD・O・S被害者を出したリバイアサンの事件は、忘れることの出来ない出来事である。
「今回のはもっと原始的な方法だよ、ログアウトする前にその物自体を物理的に破壊する…というね」
「物理的に破壊って…このフェンリルそのものを破壊するってことか! …しかし、どうやって!?」
 バチェラの説明に、さらに驚いてしまった。
 確かに、ログアウト前にこのフェンリルを破壊されたら、間違いなく死んでしまうだろうが、宇宙空間に浮かんでいる軍事衛星を壊すことがそう簡単にできるとは思えなかった。
「ルートS6、その基幹である通信衛星アルテミスが月側の手に落ちた。
 数時間前のことだけど、まあしょうがないよね、ほとんどの戦力がその隣…ここ、フェンリルに集まっていたんだから」
「それが…」
 …関係あるのか? と口にする前に…
「そう、それが大きく関係あるんだよ」
 …バチェラがそう答えた。
「乗っ取ったアルテミスにある一つの命令をして、やつらはそこからすぐにログアウトした。
 その命令も非常にシンプルだったよ、アルテミスにあるベクトルを与えるだけの物だったんだ。
 そしてそのスピードは徐々に上がっていき、その算出コースに気づいたときにはもうジャミングがされていたという、実に用意周到な作戦だよ」
「まさか…」
「そう、このフェンリルにアルテミスをぶつけて破壊するってことだよ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!!!


「やばい、もうここの破壊が始まってる!」
「あと100仮想メートルです! 急いでください!!」
 騒音と振動が始まったかと思うと、周囲の構造物(ストラクチャ)も像の構成がぶれてきだした。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!!!!!! 


 騒音は轟音となり、振動は地震へと変わってきた。そして…

「よしっ、見えた! 出口だ!!」


 …そう叫んだのと同時だった…




   アボート
強制離脱





 ……………………
 …………
 ……
「うっ…」
 ゆっくりと目を開ける。アボートの影響で気分が悪いが、とりあえずは無事のようだ。
「みんなは?」
 コンソールから起きあがり、あたりを見まわす。
「透さん、気づいたんですね」
 みのりの嬉しそうな声に、そちらを伺う。
「それで、みんなは?」
「みなさん無事です。リャンさんから連絡がありまして、あちらも無事だそうです」
 その言葉を聞いて、ようやくっホッとする。
「そうか、なんにせよ良かったよ」

「…まあ、第一小隊だけでも全員無事でとりあえず良かったよ」

 中隊長の言葉で、思い出す。
「突入部隊は、どうなりましたか?」
「…四割が脳死(フラットライン)だ。…それでも、バチェラが道々伝えてくれたおかげでまだ助かった方だよ」
「…そうですか」
「国連軍総本部では、今回の件に関して厳重に抗議すると共に、厳しく罰する…という決定を下したそうだ」

「それって…」


「そうだ…第四次世界大戦…いや、第一次宇宙大戦が始まったということだよ」



 本当に突拍子もない出来事というのは、冗談であったならと思わずにいられない物である。










次回予告

  時代とともに、ヒトも、文化も、そして戦争までも大きく様変わりをする。
  直接相まみえることもなく、電脳世界で戦争が行われるようになったのだ。

  量より質の理論により、短期決戦を臨む月側は国連本部への直接攻撃をしかける。
  その先頭に立つのは「赤い彗星」と呼称されることになった、あの真紅のシュミクラムであった。
  再び戦場で相まみえる、「草原の狼」と「赤い彗星」の二体。
  …勝つのは、どっちだ!?


次回、「メールシュトローム作戦」

キミは、生き残ることが出来るか?








 ※注 続きませんw






作者コメント


自分の所のHPにのっけたものの転載で申し訳ありません。
バルドフォースの興奮冷めやらぬ中、憐エンド後アフターという形で、語られてないのをいいことに、勝手な世界観までぶち上げちゃってますw
憐エンドでは食堂のおばちゃんになってしまっている笹桐月菜ファンの方には、申し訳ないですw
ふんだんに使わせてもらっているパロディは、某有名アニメからですw やっぱファーストが一番でしょう! 種デスは・・・

Written by 須達龍也