長い職員会議を終え、自宅の扉の前へとようやく辿り着いた時、腕時計の針はもう夜の8時を回っていた。
南栄生島という小さな離島では、夜の8時といえばもはや深夜と言っても過言では無い。かろうじて繁華街といえる場所は灯りと人気があるだろうが、住宅街に至っては街灯以外は人っ子一人いやしない。
コンビニですら夜の10時には閉まってしまうような田舎は、けれどおかげで夜空の星を見るには都合が良かった。まあ、今現在の自分にはそんな余裕は残ってはいないわけだが。
鍵を開けて自室に上がる。
六畳二間と小さな台所、それにお風呂とトイレ。かつては木造の古びた寮で暮らしていた頃と比べれば圧倒的にプライバシーの守られた空間は、けれどなぜか寂しいさを募らせた。
ハンドバッグを置いて、化粧を落とす暇もなくノートパソコンの電源を入れる。
かすかな駆動音と共に液晶にOSの立ち上げ画面が映る。
その間にスーツを脱いで、楽な部屋着に着替えてしまう。丁度ログイン画面が表示され、パスワードをぺちぺちと打ち込んで、エンターキー。
デスクトップ画面が表示され、自動でメッセンジャーが立ち上がった。
リストに並ぶ名前の数はそう多くはない。
実際、彼女がメッセンジャーに登録している事を知っている人間の数は、両手で足りる人数だろう。
「――んー。まだ上がってない、かぁ」
リストを一瞥して、そう呟くと彼女は自分のステータスを「退席中」に変えて、立ち上がる。
「先にお風呂入っておくかな」
桐島沙衣里。2○歳。女性、独身。南栄生島の高見塚学園に勤務する教諭は、着替えとバスタオルを手に広くもない風呂場へと消えるのだった。
シャワーを浴びて化粧も落とし、あとはスキンケアを済ませるだけ。
そんな状態で発泡酒の缶を片手に、ノートパソコンの前に陣取る。
テレビもついているが、沙衣里の意識の大半はメッセンジャーのリストに向いていた。
「……遅い」
時計をちらりと見ると、もう約束の時間まであと少し。あと五分ほどである。こっちは長々とした職員会議が終わってからこっち、必死になって帰ってきたというのに。
「何してるのよ、まったくぅ……」
少しばかりいらだった声を飲み込むように、発泡酒に口をつける。
――と、デジタルの数字が21時に変わるとほぼ同時に、メッセンジャーに新しい名前が加わった。
「あ。上がった!」
ヘッドセットもあわせてかぶり、リストに上がった名前をダブルクリック。
電話の呼び出し音のような音がして、相手の応答があった。
「ただいま、さえちゃん」
「おそーい。遅いわよぉ」
「そんなこと言ったって、バイトが押したんだって。悪かったよ」
「……そんなに忙しいの? バイト」
「いや、忙しいっつーか、相手の家で飯でもどうかって引き止められたというか」
「……」
「用事があるって言ってちゃんと断ったって!」
沈黙した自分に言い訳するように、相手の声が高くなる。
それを聴いて、少しばかり苦笑いをして、口を開いた。
「ん。分かった。信じてあげる。……おかえり、星野」
ヘッドセットから聞こえる声は、星野航。つい2年ほど前までは自分の教え子でもあり、そして恋人でもある男だった。
「それにしても、星野が家庭教師ねえ」
「なんだよ。教職課程とってるから、ちょうど良い練習にもなってるんだぞ?」
しみじみとした沙衣里の呟きに、少しばかり拗ねたように航。その声に、沙衣里は喉を鳴らして笑う。
「だって。南栄生島きっての素行不良生徒だったあんたが、よりにもよって先生目指すだなんてさ――おかしくって」
「南栄生島きっての素行不良教師に言われたくねえなぁ」
航のぼやき声を聞き流しながら、沙衣里は笑う。
「でも、ちゃんと教えられてるんだ?」
「ま、その辺りはなんとかね。さえちゃんの方は? 変わりないか?」
昨日も聞いたなぁ、なんてことを想いながら頷く。
「ん。全然代わり映えなし。そう、聞いてよ! 今受け持ってるクラスの田村っていう子がさぁ――」
桐島沙衣里と星野航。二人が付き合いだしたのは、まだ高見塚学園に「つぐみ寮」なる学生寮が存在していた頃のことだった。つまるところ、教師かつ寮長であった桐島沙衣里は当時まだ学生かつ寮生であった星野航と、いわゆる『不適切な関係』になってしまったのである。
これが原因で航が退学になってしまう危機に陥った時、沙衣里の努力と他寮生の尽力で辛うじてそれは免れることができた。しかしそれはあくまでも、偶然の産物なのであり次に同じことがあれば回避できないである事は間違い無い―――。そう思い知った二人は、航が学園を卒業するまで互いの関係を一時凍結することを決めたのだった。
一年と半年ほど。それが二人が互いの関係を『先生と生徒』として維持し、それ以上の線に踏み込まないように気を遣った期間である。
長かった。実に、長かった。
おまけに、星野航は学園卒業後の進路を、島外の大学への進学に決めてしまっていた。
つまるところ、せっかく『先生と生徒』じゃなくなったというのに、今度は遠距離恋愛をしなくてはならなくなったのである。
ごねた。散々ごねた。しかし『先生』である桐島沙衣里は、進学を選んだ『生徒』の選択をバックアップこそすれ遮ることなど許されるはずもなく。
結果、星野航は進学のために、島を離れることとなったのだった。
最初の一ヶ月は、毎晩のように電話をした。お互いに、どちらともなくかけていた。
しかし、航がアルバイトを始め、沙衣里もまた担任としてクラスを一つ持たされた事から、時間が合わなくなってしまった。
そこで、電話をする時間を決めた。
駄目ならメールを打つ。そういう取り決めをして、半年。
致命的な事態が起きてしまった。
「――いかんぞ、さえちゃん。このままでは俺が電話代で破産してしまう」
「……うー。いや、わたしも同じなんだけどさぁ」
「さえちゃん。あんた一応社会人――」
電話を少しばかり控えよう。お互い、ちょっと忙しくなってきたことだし。そんなことを言って一週間で、沙衣里が切れた。
「さみしいよぉ、星野ぉ」
「あんた一体いくつなんだ、さえちゃん」
「星野は寂しくないの? うう……」
「ああ、もう!」
そういった過程を踏まえ、二人の間に導入されたもの。
それが、インターネットを通じたP2Pによる通話ソフト――いわゆるインターネット電話であった。
航の住む地域は、いわゆる首都近郊の大都会である。日本全土を見ても比較的早くにネットワークインフラが整備される傾向のある地域に住む彼は、ブロードバンド化の恩恵を簡単に享受できる地域に住んでいた。特に電力会社系の光ファイバーの敷設に加速がつき、安価で高速ネットワークに接続できるようになったのは、時代の恩恵だろう。
対して、沙衣里の住む南栄生島は総人口も少ない離島である。本来、そういったインフラがもっとも後に整備される傾向のある地域のはずだが、この島は出水川重工の大規模施設が置かれていた。当然本土とも密な連絡を取るためにネットワークインフラの整備を行っており、衛星経由のネットワーク接続と海底ケーブルの二重化が図られているのである。
おかげで、離島でありながら下手をすれば内地の過疎地よりもブロードバンド化は万全だった。
「まあ、これのおかげで随分家計は助かってるけどさぁ」
沙衣里のぼやき声に、航が笑う。
「なんだよ。まだ何か文句があるのか?」
「いや、でもさぁ……」
リストに並ぶ名前を見る。
浅倉奈緒子、羽山海己、六条宮穂、藤村静、沢城凛奈。
他に並ぶのは、学生時代からの悪友達の名前であったりするわけだけれど。
問題は何よりも、この五人だった。
つぐみ寮で暮らした仲間たち。実家の家族よりも家族だったかもしれない彼女たちの名前がリストの載っている事が問題なのではない。これが自分のリストにだけ載っているなら良いのだ。
だが、実際は―――。
航がインターネット電話を導入した、という事を聞くやいなや五人も同じインターネット電話に参加してきたのである。
沙衣里が彼女たちの名前を登録したのは、航が登録した後だった。
彼女たちが航にとって、切っても切れない存在であるという事は理解している。そもそも、海己や奈緒子に至っては沙衣里よりも付き合いが長いのだから。
自分にとっても、彼女たちは大切な家族だ。
だから、そんな家族同士で手軽に連絡が取れる環境が整っているのは、嬉しい。嬉しいのだけれど、彼女たちが航と親しげに話しているのが、少しばかり納得がいかない。
彼が傍にいるのならともかく、今は自分ひとりが彼から離れていることも、それを助長した。
「……ねえ星野。海己たちとは、そっちに行ってから会った?」
「うぇ!? ああ、いやそれは……」
何やら言葉を濁す航に、沙衣里の中の女の勘がピンと反応する。眉間に寄った皺をそのままに、声が自然と低くなる。
「……会ったわけ? 会ってるわけ? わたしが全然あんたに会えないっていう時に」
「いやいやいや。そんなこと無いって、うん! 全然!」
「嘘だー。あんた絶対に会ってるでしょ! 誰!? 海己? 宮!? 静!? 凛奈!? それともまさか……浅倉じゃないでしょうね!」
「えーと」
「やっぱり会ってるんだ!? 星野の馬鹿!」
「いやいやいや。なんでだよ」
子供みたいに泣き喚いているなぁ、という自覚を持ったわたしに、星野の答えは冷静だ。それがなおさらに癪に障る。
「星野はもうわたしなんか要らないんだ」
「ちょっと待てって、さえちゃん!」
「そーよそーよ。結局遠くの恋人より手近な女なのねー」
「さえちゃん……あんた酔ってるだろ」
「酔ってなんかないわよー。星野のばかー」
ぐい、と缶に口をつけて中身を煽る。
目の前に4本ほど空き缶が転がっているが、気にしない。
「そーよねー。もうお肌の曲がり角を迎えてる女なんかより、ピチピチしてるほうが良いもんね。どうせね、女子大生のおねーさんたちに可愛がってもらったんでしょー」
「いやいやいや! なんでそうなる!」
「ふーんだ。わたしが一人、こんな離島で寂しく歳をとってるってのに、星野は愉しんでるわけだ」
何やら口から零れていく言葉が、えらくマイナス方向に加速しているのだけれど、止めることもできずにいる。
「あのなぁ、さえちゃん」
あ、駄目だ。星野の声が低くなる。これ以上わたしが何か言えば、きっと怒る。
大体、身に覚えのないことで責められているのに、それでも星野がこれまで怒らなかったのは遠距離恋愛だから。星野が我慢してくれてるから。わたしが我慢してるって、わかってるからなのに。
その、ほんのちょっとの気遣いの距離をわたしは簡単に踏み越えて、星野の忍耐を試してる。
「だって――」
分かってても、わたしの口は止まることなく反論の言葉を紡ぎだそうとして――電子音に遮られた。
聞き慣れた最近流行りの歌の着メロ。わたしも使ってるそれは、でもわたしのケータイのものじゃなくて。
「星野?」
「……悪い、さえちゃん。ちょっと待って」
少しだけ困った声で星野。そのまま向こうのマイクが切られたのか、星野の声が消える。
画面を見れば、通話はまだ続いてる。
向こうに、わたしの声は多分届く。
でも、ヘッドセットを多分外しただろう星野には、わたしの声を聞いていないし、こっちに向こうの声は届かない。
まるで、テレビの向こう側のような、距離。
「……悪かったな、さえちゃん」
星野の声が、また聞こえた。
「ううん。なにか急ぎの電話だったの?」
「あ、ああ。大学の先輩からでさ。珍しく電話なんてしてきたから、何事かと思って」
「もう良いの?」
「ん。さえちゃんを待たせるのもなんだろ? 詳しい話は明日会えば良いし」
「……そっか」
気軽に星野は「明日会えば」と言う。言えてしまう距離に、その人はいるのだ。
わたしは、こうして時間と場所を限定されたところでしか、星野と話せない。星野に触れることもできない。
「なぁ、さえちゃん」
「……なに?」
「あのさ。俺、その、みんなとはそりゃ確かに、こっちで会ったよ。こっちに居るわけだしさ」
「うん」
「それを、怒ってるのか?」
「ちがう」
あいつらと会うことを怒ったりはしない。わたしだって、もしあいつらが近くにいるんだったら、絶対に会いに行くだろう。だからそういうことで怒ってるわけじゃなくて。
「じゃあ、なにを怒ってるんだ?」
「怒ってるんじゃなくて、拗ねてるの」
「……自分で言うか」
あきれ声の星野は、なぜか喉を鳴らして笑う。
「だって、海己たちに会いたいのは、わたしだっておんなじだもん」
「そっちかよ!」
「あと、星野がみんなに会って鼻の下伸ばしてるのもむかつくし」
「伸ばしてないって!」
「嘘だー。絶対に伸ばしてるよー。あんた女子大生の浅倉奈緒子を見て、平然としてる自信ある? お嬢様然とした格好した宮に『センパーイ♪』なんてなつかれて平気? ちょっと成長した静にぎゅっと抱きつかれて平然としてられる? わたしは無理だわ!」
「言い切ったな、おい」
わたしの手元に送られてきた数葉の手紙。そこに同封されていた写真は、つぐみ寮を卒業していった彼女たちの姿がそれぞれに映っていた。
静は少し髪が伸びていた。子供っぽい顔は、ちょっと女の子として成長していた。
宮はお嬢様っぽくツンと澄ました顔をしながら、それでも悪戯っぽく笑っていた。
凛奈は大学でも陸上を続けているらしく、ショートパンツ姿で照れくさそうに笑ってた。
海己は、今でも少しだけオドオドした顔で、それでも気丈そうに微笑んでいた。
浅倉は、ただでさえ綺麗だったのに、ずっとずっとあか抜けて綺麗になってた。
「あのなぁ、さえちゃん」
まるで子供に言い聞かせるみたいな、ゆっくりとした喋り方で話しかけてくる星野は、なんだか苦笑してるみたいだった。
「もうちょっとさ、一年半以上お預けをくらってた俺の我慢強さとか、気持ちの強さとかを信用してくれないかな。俺がさえちゃんが言うような奴なら、その間に別の手近な女の子に乗り換えてるだろ?」
「だって。あの頃にはもう、みんないなかったじゃない」
「俺が恋人にするのは、つぐみ寮のメンバーだけなのかよ」
呆れ声に、でもわたしは唇を突き出して。
「だって。そうじゃん。他の女の子とはお遊びで付き合えても、あんたが真剣に相手するのはつぐみ寮の仲間だけでしょ。星野ハーレムなんだし」
「もう、わけがわからんぞ……」
心底からそう思ってるんだろう。星野の呟きを聞きながら、わたしもなにがなんだか分からなくなって。
「……会いたいよぉ、星野ぉ……」
こぼれた呟きが、胸から零れ落ちた気持ちだった。
† † †
夏休みに星野が帰ってきて、それから一週間くらい過ごしただろうか。先生と生徒じゃなくなって初めて迎えたずっと一緒の時間は、あっという間に過ぎていって。
星野はバイトやらなにやらで、また内地へと戻ってしまった。
ずっと一緒だったものが、また遠くなった。
なまじ会ってしまったものだから、会えない時間が耐えられなくなってしまった。
我ながら、子供みたいだ、なんて分かっている。
それでも気持ちを素直に吐露することは、悪いことなんだろうか。
「……さえちゃん。先生辞めるか?」
「……え?」
突然、星野がそんなことを言った。
「星野?」
「さえちゃんが先生辞めれば、南栄生島から出る事だってできる」
なにを言ってるのか。
思わずそんな風に思う。
「そしたら、一緒に居られるだろ?」
「そ、そんなこと言われても」
「一緒にいたいんだろ?」
「星野……」
言葉が詰まる。確かに、教師を辞めれば内地に戻って星野と一緒にいることだってできるだろう。今は就職難のご時世だが、その気になれば職探しができないわけじゃない。不況の波はそれなりに過ぎ去り、働き口のアテがないわけじゃないのだ。
けれど。
「……無理、だよ」
教師という仕事がようやく面白くなったのだ。あのつぐみ寮で、みんなと一緒になって戦って、戦い続けて。
そして、生徒たちを送り出すという仕事に、生きがいのようなものを見出したばかりなのだ。それなのに、辞めるなんて事――できるはずもなくて。
星野の答えはない。
寂しいと文句を言い、一緒に居たいと言いながら、教師を辞めることを拒んだわたしを、星野はどう思っただろう。
沈黙が続き、居心地の悪さを覚えた頃、ぽつりと星野が呟いた。
「……ほら。さえちゃん、やっぱ充実してるんじゃん」
「え?」
「俺に会いたいとか、色々言ってるけどさ。でも、仕事も面白いんだろ? ちゃんと、充実してるんだろ?」
「……うん」
「あと何年かしたら、ずっと一緒だ。それまで我慢しようぜ。お互いに」
「……うん」
「寂しくなるかも知れないけど、辛くなるかも知れないけど、でも話せないわけじゃないんだしさ」
「……うん」
「あと、ちゃんと毎年帰るから」
「……ん」
「沙衣里先生も、がんばれな」
「星野も、がんばんなさいよ。留年とかしたら、マジで駄目だからね」
「おう。それは多分大丈夫」
「その自信の出所はどこから」
「あんた、自分の教え子をもう少し信用しろよ」
お互いに、クスリと笑う。
寂しさはもう無かった。
「じゃー、明日も早いからそろそろ寝るな」
「……うん」
「さえちゃんも、ちゃんと寝るんだぞ」
「ん」
「腹出して、風邪とか引くなよ」
「わたしは子供かー!」
あっはっは、と笑い声を残して星野との接続が切れる。パソコンのファンの音だけが、部屋に響く。
ケータイがブルブルと震えて、メールが一通着信。
subject:おやすみ:
from:wataru hoshino
本文:言い忘れてた。おやすみ、さえちゃん。
ついさっきまで話してたのに。ただ、おやすみを言うためだけにメールを打つ星野。
このケータイには、そんな風に届いたメールがたくさん残ってる。
「……バーカ」
そう呟きながら、わたしの指は返信を打っている。
subject:Re:おやすみ
from:saeri
本文:おやすみ、星野
パソコンの電源を落として、布団を敷いて潜り込む。
部屋の電気を消して、真っ暗になった部屋の中で目を閉じる。
ケータイを、すぐ傍において、小さく吐息を一つ。
「おやすみ、星野」
多分、向こうでも同じようなことを言ってくれてるだろうと信じつつ、意識を眠りの中に放り投げた。
† † †
パソコンを落として、缶ビールに口をつける。
「……しかし、さえちゃん。なんで気付かんのかなぁ」
航は沙衣里の手元にあるのと同じ、つぐみ寮の仲間たちの写真を手に、ぼやく。
その写真の背景は、五枚ともが同じ背景だった。
まるで五人がそれぞれに交代で同じ場所で写真を撮ったかのように。
いや。実際そうなのだけれど。
五人の写真。それは撮影者がいるはずだ。
沙衣里は特に疑問に思わなかったようだが――普通背景が一緒であれば撮影者も一緒と考えるだろう。ましてや五枚全部が揃ってるなら、気付かないほうがおかしい。
ペラリとめくれば、六枚目の写真。
五人と、航全員が映った写真。
「……これ見せたら、さえちゃん怒るよな。絶対……」
内地に着いてすぐに、浅倉奈緒子に呼び出された。そこにはなぜか、海己や凛奈、宮穂や静まで揃っていて。
「つーか、なんで気付かないんだ。さえちゃん……」
五人が手紙を送ったということは、その返信用住所で現在の彼女たちの住所も分かってるはずということで。
そこに書かれた住所は、番地こそ違えど皆同じ町名なわけで―――。
部屋にまではやって来ることは無いが、彼女たちは現在、いわゆるご近所さんたちなわけで。
「……ばれたら刺されそう、かな」
そんな風に呟いた。
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