| 仮面ライダー七咲逢は改造人間である。
 彼女を改造したダーク・ファラオは、世界征服をたくらむ悪の秘密結社である。
 仮面ライダーは、人間の自由のためにダーク・ファラオと戦うのだ!
 (ナレーション:中田穣治)
 
 
 
 「ほーっほっほ。来たわねライダー」
 「卑怯よ、ヘル・ナカタ! その子を離しなさい!」
 「やっほー、逢ちゃーん」
 「森島先輩、違います!」
 「あ、ごめんなさい。助けて、逢ちゃん!」
 悪の秘密結社ダーク・ファラオの不必要に露出の高い衣装を身にまとった女幹部、ヘル・ナカタが持つ鞭に絡め取られた女子高生が上げた悲鳴を聞き、七咲は怒りに震え歯ぎしりする。
 「許さない……ッ!」
 
 
 
 説明しよう!
 七咲逢の怒りが頂点に達したとき、ベルトに内蔵された味噌ラーメンの力が反応して、わずか0.02秒で仮面ライダーナナサキに変身するのだ!
 (ナレーション:中田穣治)
 
 
 
 「ライダー、今日が貴女の最後よ! 行きなさい、怪人・ニシシミャー!」
 「にぃににぃに」
 「かかってきなさい!」
 「にぃににぃに」
 「いや、ニシシミャー? こっちじゃなくて」
 「にぃににぃに」
 「美也ちゃん、違……駄目、そんなところ触っちゃ」
 「にっしっしー」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「……これだと、僕の出番がほとんど無いじゃないか」
 「何してるんですか? 先輩」
 「うん。ちょっと脚本チェック……って七咲!?」
 いかん、作業に集中しすぎて人の気配に気づかなかった。しかも来たのはよりにもよって七咲だった。
 「またエッチな本ですか?」
 「あっ!」
 そして突然の出来事にうろたえている隙に手元にあったモノを奪われた。
 「七咲、それは――」
 「……? 本じゃなくノートですか?」
 僕が止めるまもなく七咲は僕から奪ったノートをパラパラとめくり、その中を読み進める。
 読み始めた瞬間は訝しげに、少しして考え込み、やがてノートを握った両手がぷるぷると震え、ノートの影になってよく見えないその顔は真っ赤になっていた。
 その赤さは照れとか恥ずかしさとかじゃなく――いやまあそれもゼロではないだろうけど、別要素が多いと思う。
 「何を考えてるんですか!」
 例えば怒りとか。
 「いや、何って聞かれても……」
 正直色んなことを考えてはいるけど、それはきっと言わない方がいいと思う。
 そんな感じでおろおろしている僕を見ると、七咲は諦めたように一つため息をついてからまた口を開いた。
 「それで、これは何ですか? 何かの台本みたいですけど」
 「台本って言うか正確に言うと脚本なんだけど……」
 「仮面ライダーの、ですか」
 「うん」
 一瞬ごまかそうかとも思ったけど、よく考えてみるとごまかす意味がない上にどう考えても無理だった。だって脚本の書いてあるノートの表紙には『仮面ライダーナナサキ』ってでかでかと書いてあるし、1ページ目にはキャスト一覧とか書いてあるし。
 「それで、私が仮面ライダーだと先輩は何になるんですか?」
 「えっと」
 「この『キャスト一覧』っていうのに先輩の名前が無いんですけど」
 「僕は敵の組織の首領――らしいんだけど」
 「意外なような納得いくような……って、『らしい』って何ですか?」
 「いや、だってそのキャスト一覧でも首領のところは『?』ってなってるだろ?」
 「それは見ればわかりますけど。これって先輩が書いたものじゃないんですか?」
 「あー、それが……」
 言うべきか言わざるべきか。
 一応口止めはされてるんだけど見られちゃったし、そもそもこれを最後のページまで見ればサインがしてあるのだ。ここで僕が黙っていても意味はないのかもしれないけど、一応約束したしなあ。
 そんな感じで悩んでいると、扉が開かれた。どこの扉って、そう言えば説明していなかった僕の――今は七咲も隣にいるけど、とにかく居場所は放課後の教室だった。もちろん自分の。
 結構遅い時間なので他に誰もいないし、逆に言うとそんな遅くなので水泳部の練習も終わって七咲が僕を探しに来てくれたのかもしれないけど、とにかくそんな教室の扉を開けて、一人の少女が入って来た。元気よく。息を切らせて。
 「先輩、できました! 第二話!」
 とっても嬉しそうに。
 「中多、さん?」
 「あれ、七咲……さん……?」
 そして僕の隣にいる七咲を見て、驚きの表情を見せた後に顔を青くして、ついでにおびえた小動物のようにぷるぷると震えて。
 そんな中多さんの手からは握りしめていたノートが落ち、偶然なのかなんなのか、七咲の方へと滑ってきて――最後のページが開かれた。
 『脚本:中多沙江』
 「……えっと」
 予想外だったのか、自分の親友の名前を見てどうしたものかと考えている七咲。
 こんなことなら『やっぱりペンネームは恥ずかしいです』とか言う中多さんの意見は無視してペンネームで書かせるべきだった。
 しかし、後悔先に立たず。まさにそんな言葉を実感しているわけだけど、それをのんびり味わっている余裕はない。でもこの状況をどうすればいいのやら。
 そんなことを考えて無様におろおろする僕と後輩二人を救ったのは、新たなる人物の登場だった。
 「橘くん、響ちゃんも手伝ってくれるって」
 「ちょっとはるか、そんなこと言ってないでしょ?」
 「森島先輩と……塚原先輩?」
 
 
 
 
 
 
 その年、輝日東高校の『三年生を送る会』において、有志による舞台劇(脚本:ミルクフォーチュン)が評判を呼んだことだけ記しておきたいと思う。
 
 
 「先輩は本当にろくなことをしませんねっ!」
 「でも、録画したDVD見せたら郁夫くん大喜びだったじゃないか」
 「知りませんっ!」
 
 
 
 
 
 
 
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